卵子の品質評価
経験的によく知られている方法は、卵子の形態から品質を判断する方法*2)です。例えば、より大きく均質な卵子の方が発育率が高いという判断基準です。しかしながら、似通った形態を示す卵子に優劣をつけることは難しく、観察者によって判断が異なるという問題も起こります。近年になり、卵子の酸素消費量を測定する方法や、タイムラプス動画と人工知能を組み合わせて分類する方法を用いてより客観的・定量的に卵子品質を数値化しようとう研究が進み、卵子の品質診断が注目されるようになってきました。
このような背景のなか、生体生理工学研究室では卵子透明帯(ZP)の弾性率を世界で初めて測定*3)し、受精前後にZP弾性率がダイナミックに軟硬化している現象を明らかにして*4)、ZP弾性率から受精卵品質を定量的に評価する手法を提案してきました。また、ZP弾性率変化が “ZPを構成する糖タンパク質の切断と構造変化”に起因することに着目し、ZPの構造変化を複屈折の変化として測定することで卵子品質を非侵襲に評価する方法について研究を進めています*5)。
*1) 「神秘的にさえ感じられる生物と非生物の違いを生み出しているは、生物のもつたった1つの性質 ー 常に乱雑さを増す宇宙の中で秩序を生み出し、維持できる能力である。」Molecular biology of THE CELL 細胞の分子生物学 第6版より引用 …この細胞の持つ能力の詳細がほとんど未解明なのです。
*2) Gardner分類、Veeck分類など
*3) Y. Murayama et al., "Micro-mechanical sensing platform for the characterization of the elastic properties of the ovum via uniaxial measurment." Journal of Biomechanics, vol.37, no.1, pp.67-72, 2004
*4) Y. Murayama et al., "Mouse Zona Pellucida Dynamically Changes its Elasticity during Oocyte Maturation, Fertilization and Early Embryo Development." Human Cell, Vol.19, no.4, pp.119-125, 2004
Y. Murayama et al., "Elasticity Measurement of Zona Pellucida Using a Micro Tactile Sensor to Evaluate Embryo Quality." Journal of Mammalian Ova Research, vol.25, no.1, pp.8-16, 2008
*5) 科研費基盤(C)「透明帯(ZP)複屈折の定量イメージングによる未受精卵の品質診断」研究代表者:村山嘉延、研究期間2018-2021
マイクロ流路を用いた受精卵培養
最近になり、受精卵培養に卵管内の物理的刺激環境を再現させる方法が試みられ、マイクロ流路を用いて培養液を揺らす方法*1)、卵細胞傾斜培養により卵管内の受精卵移動速度により受けるシェア−ストレスを再現する*2)ことで発育度(胚盤胞到達率など)が向上することが分かりました。すなわち「培養環境の変化によるストレスは最小限である方が良い」というこれまでの考え方から、「心地よい刺激は受精卵の発育を促す」という新しい発想による受精卵培養が注目を浴びています。
これに加えて、私達の最近の研究により、受精卵の弾性率測定中にエバネッセント超音波振動(肌にそよ風が当たる程度の極微小の刺激)による刺激が加わることにより、受精卵の発育が促されることが分かりました*3)。母親の卵管内や子宮内で受精卵に加わる刺激を再現することにより、受精卵がもっと元気になるかもしれません。
*1) Heo et al., "Dynamic microfunnel culture enhances mouse embryo development and pregnancy rates", Human Reproduction, Vol.25, No.3, pp.613-622, 2010など
*2) Matsuura et al., "Improved development of mouse and human embryos using a tilting embryo culture system.", Reprod Biomed Online 2010; 20:358–364. など
*3) Murayama "The Potential Adverse and Enhancement Effect of Evanescent Ultrasound on Embryonic Development", 2018 BMES annual meetings
** 総説は例えばSmith and Takayama, "Application of microfluidic technologies to human assisted reproduction.", Molecular Human Reproduction, Vol.23, No.4 pp. 257–268, 2017 に詳しい
母胎温変化を模倣する受精卵培養法
本研究では“体外培養(培養温度は37℃一定)した受精卵の発育度はどうしてin vivoに比べて劣るのか”という問いに対し、“受精卵本来の培養環境である変化する母胎温は受精卵の発育に最も適するはずはないか”という仮説を立てて研究を進めています。母胎温変化を模倣する培養器を開発してマウス受精卵を培養することにより、胚盤胞到達度,内部細胞塊細胞数などを比較して、受精卵が最も心地良いと感じ発育が促される温度変化のパターンを調べています。
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